コドモとオトナ

5歳になったボクは不思議に思っていることがある。
「コドモとオトナってなにがちがうの?」
「ボクはコドモ?オトナ?」
「いつまでコドモなの?いつオトナになるの?」
公園の近くに住むおじいさんに「オトナとコドモって何が違うの?」と聞くと、
「難しいこと考えてんだな~。そうだね~、オトナは体が大きくて、子供は体がまだ小さいかな」
「そうか!たしかにオトナはみんなカラダがおおきくて、こどもはからだがちいさい。からだのおおきさでオトナとコドモってちがうんだ!」
「あれ?、でもとなりのおにいちゃんはからだはオトナみたいにおおきくても、まだコドモなんで、けいたいでんわはまだはやくてダメなんだって。」
「あれ?どういうこと??」
次に、家の近所にいるお姉さんに「ボクはコドモ?オトナ?」と聞くと、
「あら、可愛いボクちゃん、面白いこと聞いてくるわね~。ボクちゃんはまだコドモかな~」
「でもボク、ひとりでもスーパーにいっておつかいできるよ!けいたいでんわももってるし、それでもコドモなの?」


お姉さんは少し困ったように笑って、ボクの頭をなでながら言いました。
「そうね。お使いができるのは立派なこと。でもね、オトナっていうのは、誰かに『やっていいよ』って言われなくても、自分でやることを決めて、その結果を自分で引き受ける人のことなのよ」
ボクはますます分からなくなりました。 「自分で決める……? ボク、今日のおやつはグミにするって自分で決めたよ! じゃあ、ボクはオトナなの?」
お姉さんはクスクス笑って、「それはまだ、お母さんに買ってもらったグミでしょ? まだまだ、可愛いコドモね」と言って、どこかへ行ってしまいました。
ボクは考え込みました。 カラダの大きさでもない。 「オトナ」って、なんだか透明な壁の向こう側にある、魔法の言葉・・・
帰り道、ボクは公園のベンチで、スーツを着たオトナの男の人が、頭を抱えて座り込んでいるのを見つけました。その人の横には、ハンカチが落ちていました。
「おじさん、これ、落ちたよ」
ボクがハンカチを拾って渡すと、おじさんは力なく笑って言いました。 「ありがとう。……ボク、おじさんはね、本当はまだコドモのままでいたいんだ。オトナになると、間違えたときに誰も『いいよ』って言ってくれないし、泣きたくても泣けないんだよ」
ボクはびっくりしすぎて目玉が飛び出しそう!! 「えっ! おじさんはオトナなのに、コドモになりたい? ボクはこんなにオトナになりたいのに?」
おじさんはボクの顔をじっと見て、ふうっと深呼吸をしました。 「そうだね。ボクが『オトナになりたい』と思っている間は、ボクはきっと幸せなコドモなんだ。そして、おじさんが『コドモに戻りたい』と思っている間は、おじさんはきっと、一生懸命オトナをやっている証拠なんだろうな」
ボクは、なんだか胸のあたりがムズムズしました。
ボクは家に帰って、鏡の前に立ちました。 鏡の中には、5歳のボクがいるww
「お母さん、ボク、わかったよ。オトナとコドモの違い」
台所で夕飯を作っていたお母さんが、振り返りました。 「へえ、どんな違いだったの?」
ボクは胸を張ってこう答えました。
「コドモはね、『早くオトナになりたい』って思う人のこと。オトナはね、『コドモに戻りたい』って思う人のことなんだよ。だから、どっちも今の自分じゃないものになりたいんだ。変だよね!」
お母さんは包丁を止めて、少しだけ遠くを見るような目をしました。 そして、優しく、でも少し寂しそうに笑って言いました。
「……そうね。案外、それが一番正解かもしれないわね」
ボクは、いつか「コドモに戻りたい」と思う日が来るまで、思いっきりコドモを楽しもうと決めました。めでたしめでたし。