あべこべ影のハル

ハルは、世界で一番「せいで」という言葉を使うのが得意な男の子でした。

テストの点数が悪ければ「先生の教え方が悪かったせいで」。 友達とケンカをすれば「あいつが先に嫌な顔をしたせいで」。 部屋が散らかっているのは「お母さんが片付けろってうるさく言うせいで」。

ハルがそう言うたびに、ハルの心は少しだけ楽になりました。「自分は悪くない」という、ピカピカの盾を持っているような気分だったのです。

ある日の帰り道、ハルは水たまりで転んでズボンを汚してしまいました。

“あべこべ影のハル” への5件のフィードバック

  1. 匿名 より:

    「ちぇっ、道がボコボコしているせいで!」 そう叫んだ瞬間、地面から真っ黒な、ハルそっくりの形をした影がムクムクと起き上がりました。

    「……せいで、せいで、お前のせいで」

    影はハルの言葉を真似して喋りだしました。ハルは驚きましたが、もっと驚いたのは、影がハルの代わりに「言い訳の糸」を吐き出したことです。

  2. 匿名 より:

    ハルが言い訳をするたびに、影の口からベタベタした黒い糸が出てきて、ハルの手や足に巻き付きました。

    「宿題を忘れたのは、目覚まし時計が鳴らなかったせいで!」 ハルが言うと、糸はハルの右手をぐるぐる巻きにして、ランドセルに届かなくさせました。

    「忘れ物をしたのは、お母さんが入れなかったせいで!」 ハルが言うと、糸はハルの足を縛り、学校へ行く道を塞ぎました。

  3. 匿名 より:

    「なんだよこれ! ほどいてよ!」ハルは怒りました。 すると影は、ハルの声を真似して笑いました。 「無理だよ。これは『自分では何もできない人の糸』なんだ。誰かのせいにするってことはね、自分の手足の動かし方を、その人に上げちゃうってことなんだよ」

    ハルはハッとしました。 「お母さんのせい」にしている間は、自分ではカバンの中身を確認できません。 「時計のせい」にしている間は、自分では起きることができません。 「あいつのせい」にしている間は、自分では仲直りの魔法を使えません。

    ハルが誰かのせいにすればするほど、ハルの手足は糸で縛られ、ハルは自分一人では指一本動かせない、ただの人形みたいになっていくのでした。

    「嫌だ! 僕は人形じゃない!」 ハルは必死でもがきました。でも、糸は「せいで」と言うたびに増えていきます。

  4. 匿名 より:

    ハルは苦しくて、怖くて、ぎゅっと目を閉じました。 そして、喉まで出かかった「影が邪魔したせいで……」という言葉を、ぐっと飲み込みました。

    代わりに、震える声でこう言ってみました。 「……僕が、足元を見ていなかったからだ」

  5. 匿名 より:

    その瞬間、足首に巻き付いていた糸が、スッと消えました。 「僕が、確認するのを忘れたからだ」 言うたびに、腕の糸がほどけていきます。

    ハルは気づきました。 「自分のせい」と認めるのは、自分を責めることではなくて、「自分の手足を取り戻すこと」なんだ。 誰かのせいにしているうちは、自分では何も変えられない。でも、「自分のこと」にすれば、次はこうしよう、ああしようと、自分で決めることができる。

    ハルが全部の糸をほどき終わったとき、真っ黒な影は消えていました。 汚れたズボンはそのままでしたが、ハルの手足は、さっきよりもずっと力強く、自由に動くようになっていました。

    ハルは汚れた膝をパッパと払って、自分の足で、しっかりと家に向かって歩き出しました。

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